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日本農業の未来を提言する

曲がり角を迎えた日本の農業
日本の農業が厳しいと言われるのは、ここ数年のことではない。
少なく見積もっても40年から50年前の時点で日本農業の危機が指摘されている。
第二次世界大戦後の復興から高度経済成長に続く時代にはすべての産業が大きな発展を遂げていた。その傾向は農業分野においても例外ではなく、第1次から第2次に続くベビーブームによる食料消費の拡大、農地整備や水路整備、近代農業設備の導入に加えて、品種改良による収量向上と米穀を中心とした自給率向上の国策に守れながら日本の農業は安定期を迎えていたと言える。
しかし1970年代に入り、高度経済成長における大量生産大量消費の疑問が提起されるようになり、農薬取締法が制定されるなど機械化と農薬使用によって推し進められてきた農業の効率化に陰りが見え始めてくる。今から50年ほど前の時代ということになる。
この時点ですでに若年層の農家離れの流れは止めようがない状況になっており、日本人が食する農業生産物は農水省と農協が示す方針のもとで区画整理による大規模化、高齢化で働き手が少なくなる中での集落営農、企業による新規参入などの模索を続けるが、いずれも芳しい結果を出すことができずに現在に至っている。
その間、他の産業ではバブル景気を経験することになるが、農業ではその恩恵を与かることはなかった。
出口が見えない消費の変化
1990年代に入り、日本経済はバブル崩壊に至る。
その後から現在に至るまで日本の経済なかんずく国民の消費行動は収縮の一途をたどっている。デフレの時代である。
日本人の所得は伸び悩み、生活保護を受ける国民も急増した。商品サービスの購入は二極化し、庶民の多くは価格まずありきの消費行動となっている。
同じ商品サービスを提供するコストは、事業が小規模な方が不利になる。個人や小規模な事業者がよりよい品質の商品サービスを開発販売しても、数ケ月後には大規模事業者が類似の後続商品を製造して販売、シェアを持っていく構造が常態化してしまっている。
農業生産物においても同様の事態になっており、様々な収益構造を改善する努力が続けられてきたが、その努力さえも後続企業に持っていかれる時代になって久しい。
農業生産者から消費者に届くまでの多段階の流通チャネルをショートカットする産地直送や都市部での農産物直売所、イベント性を加味したマルシェ開催なども、マスメディアやSNSで話題になると数ケ月から半年ほどで大手資本が進出して支配地図が一気に変わる。当初から生き残っている運営母体もビジネス化してしまい、出荷している生産者の利益は限りなくゼロになっているのが実態である。
想定内の事態と言えばそれまでだが、これでは持続性のある事業を手掛けようという経営者の意欲は霧散してしまう。
変化する営農環境
危機的な状況は、最終的に収益を上げるための出口(販売)だけではない。より深刻な事態は生産現場に押し寄せている。従来から危惧されてきた営農者の高齢化、新規就農者の減少、農産物の低価格傾向などに加えて、ここ数年で急激に悪化しているのが農産物栽培の阻害要因と呼ばれる事態である。
具体的には
・野生動物被害(獣害)
・外来雑草の繁茂
・異常気象
である。

(1)野生動物被害(獣害)

日本各地で深刻な被害になっている害獣問題。地域によって猪、鹿、猿、アライグマ、熊など様々な野獣によって農産物が荒らされている。ここ数年は人間に危害が加えられる事件も散見される。原因として宅地開発等で野生動物の生息域に人間が入っていくことが指摘されていたが、近年の傾向は必ずしもそうばかりではなく、異常気象によって野生動物が食する樹木や植物が生育しないことによる食料不足で野生動物が人間の生活地域に出てきていることが指摘されている。
野生動物の被害への対策としては、駆逐と防御がある。
農業従事者としては防御が主な対策であり、具体的には防護柵を設置するのが効果的とされている。金網(ワイヤーメッシュ)、トタン板の柵、電気柵、それらの組み合わせなどが現在の主流である。私たちの実体験としては、対策をするならトタン板と電気ワイヤーの組み合わせが最も有効だと考えている。

(2)外来雑草の繁茂

外来雑草の被害は地域によってかなり差がある問題である。まだ大きな問題になっていない地域もあると思われるが、私たちが圃場で耕作している西日本の中間山村地域では深刻な事態になっている。野菜が生育する数倍のスピードで外来雑草が繁茂するために野菜が育たない。雑草の根から発散される生育阻害物質によって野菜の成長が著しく遅くなる等の被害が出ている。
外来雑草が地域内に入ってきた原因はその地域ごとに異なるが、私たちが直面した地域の原因は
・畜産事業者が食用に蒔いた牧草種が拡大した
・畜産事業者が食用に全農から購入した配合飼料に種が紛れ込んでいて地域に蔓延した
と言われている。
これは地域内の農業関係者の共通した認識であり、実際に繁茂して拡大しているエリアと雑草品種を見ると、その推測があながち間違いでないことを物語っていると思われる。

(3)異常気象

最も深刻な阻害要因が異常気象による生育不良である。
地球温暖化による影響は数十年前から言われてきたことであり、従来の栽培品種から温暖地域の栽培品種に替えていくことで、ある程度対応できるというのが多くの人の認識だったと思う。
しかし近年の異常気象はその認識さえも大きく超えてしまった。
夏の猛暑は4月末のゴーデンウィーク頃から始まり、従来の梅雨の天候と重なって多湿と高温、長雨と冷夏の現象を繰り返し、野菜の組成組織が破壊されて生育途上で畑の中で黒く変色したり枯れてしまう現象が続出した。
また従来よりも強烈な大型台風やゲリラ豪雨、線状降水帯等によって露地栽培の野菜は壊滅状態になり、栽培用ハウスは吹き飛ばされる被害が続いた。冬の季節も極端な天候となっていて数十年に一度の規模の大雪によって栽培ハウスがつぶされる被害も出ていたり、苗づくりに支障が出ている。
耕作する人間も対応できない気温や天候であり、特に猛暑においては健康を考えると圃場に出ることが生命の危機を感じる事態となっている。 そしてこの異常気象は一時的なものではなく、今後も続き、さらに悪化していくことが容易に推測されている。
私たちが目指してきた農業の理想
私たちが思い描いてきた日本農業のあり方。
それは経営規模の大中小、それぞれの営農者が収益を確保しながら共生できる社会である。
主たる農産物は大規模農業法人や企業によって生産量を確保しつつ、地域性のある農産物や収益性の高い果樹類を地域ごとの集落営農やJAによるサポートで行い、個人の農家による多品種中小規模の栽培野菜等を日常の食卓に届けるモデルである。
現在の状況は理想のモデルからは程遠く、実現は困難である。
資本力のある大規模農業法人や農業に参入した企業は栽培分野の棲み分けを考えることなく、限られた消費者を根こそぎ囲い込もうとする。規模の大きい事業体にあっても経営に余裕がなく必死なのだ。
そして、悪化する獣害被害や外来雑草、異常気象への対策は個人レベルで賄える金額をはるかに超えている。
現在の栽培スタイルでは、中小零細規模の営農者は農業から撤退するしか選ぶ道は残っていないのである。
現実に農業の未来をデザインする
この現状を打開する希望の選択はあるのか。
具体的な方策はさほど難しいものではない。
露地栽培を中心に行ってきた日本の中小規模の農業を全面的に大型ハウス栽培に移行することである。
様々な栽培方式、技術革新、経営の在り方を数年にわたりチャレンジし、また現場の圃場にトラクターを走らせ、耕運機を操作し、いのしし除けの柵を立てて圃場を囲い、一方で圃場の特性を活かすために重機を使用しない不耕起による畝を固定した農法で二反を標準にした個人営農可能性を探り、栽培途中の野菜を圃場の畝で真っ黒に腐らせるなどの現実に直面しながら、猛暑の夏も寒冷の冬も、鍬を振ってきた。その中でいろいろな対策と農業の未来を模索してきた、私たちの結論である。
私たちは、全面的に大型ハウス栽培へ移行することを提言する。

最新鋭の大型ハウスであれば、IT技術を活用した空調管理、暑さと湿度や気候の変化に合わせた潅水を行うことができる。獣害や外来雑草の被害からも栽培作物を守ることができる。栽培期間も様々に対応することができ、年間を通して今まで以上に多くの品種を栽培出荷することも可能となる。
個人で投資する規模を超えているため、行政による補助金助成金等によるサポート、優良企業による出資等があることが大前提となる。大型ハウスの建設と維持管理は自治体やサポート企業が担当し、個々の営農者はランニングコスト程度の費用で年間契約で利用することができる。
これについてもすでに成功事例が出てきている。福島県や茨城県常総市などである。
福島県では震災復興財源が活用されており、常総市の事例ではIT企業のS社が共同事業体として全面的にバックアップが行われている。大型ハウスの利用に加えて契約者は農業機機械も自由に使える環境になっており、稼働率はほぼ100%でいずれも新たに利用したい営農者の契約待ちの状態になっている。
確実な未来を開く一歩を
たしかに日本農業の現状は厳しい。
しかし未来の希望はある。
人の生命を継ぎ支えていく大切な食。
その食を現実に支えるのが農業を始めとする第一次産業である。
嘆いたり批評するのではなく、現実に続けていく努力をこれからも地道に続けていこう。
それが私たちの、確実な未来を開く一歩になることを信じて。
( 2023.12 )

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