プロセキュート
【第26回】開催内容
今月の本: 『リトル・トリー』(フォレスト・カーター)
実施日時: 2007年5月26日(土)14:00〜17:00
今月の会場: カフェドジャパン和楽
北区田端新町3-29-12
※JR田端駅から徒歩12〜15分
物語は、アメリカ先住民の一部族であるチェロキーの血を引く「リトル・トリー」と呼ばれる少年が祖父と共に体験した話が中心となって書かれています。

1976年に初版が出版されベストセラーとなりますが、その後作者であるフォレスト・カーター氏の思想経歴をめぐり一大論争が巻き起こります。カーターはその騒動の最中に54歳の生涯を閉じました。
その後1985年に再刊され、現在まで静かに読み継がれてきた作品と言えるでしょう。

アメリカ先住民の叡智を学ぶことは現在社会の原点を探ることでもあります。
【作品の背景とあらまし】
1976年初版出版。1985年復刊。
主人公「リトル・トリー」が、5歳から7歳にかけて祖父母と暮した生活が描かれている作品(最終章にはその後2年余りが足早に描かれている)。
作者カーター氏(1925年生れ)の自伝という紹介があることから1930年代前半が物語の舞台。
父母をなくしたチェロキーの血を引く少年「リトル・トリー」は開拓町の近くにある山に暮す祖父母と暮し始める。
祖父と行動を共にするなかで、自然の恵みを受けながら自然の中で暮す「山の人」チェロキーのおきてを学んでいく。
一家は畑を耕し、とうもろこしをはじめ様々な作物を育てている。
ウィスキーを製造し開拓町のジェンキンズさんのお店で売って生計を立てている。
独自の自然や動植物との心の交流があり、リトル・トリーは生まれながらなのか、その多くを身につけており、祖父との交流の中でさらに深化させていく。
西欧人との文化的宗教的差異によって、自らが望んだわけではない多くの災難を受けながら過ごした幼少時代。
子供の教育や生命を愛することについても考えさせられる作品。
【ネイティブ・アメリカンの歴史】
3万年〜5万年前 先住民の祖先がアメリカ大陸に渡る
BC1000年頃 北アメリカ各地に部族別社会を形成
1492年 コロンブス アメリカ大陸(バハマ諸島)に到着
1500年代初頭 西欧人との接触、交易が始まる
1600年代以降 四主権国家による植民地化、土地の収用が続く
〔 1778年〜1871年 条約締結と一方的破棄の時代 〕
1830年 インディアン強制移住法が成立
1838年 チェロキーの「涙の旅路」
1840年〜60年代 ゴールドラッシュ・天然痘の大流行 西部開拓の波による居留地の侵略 キリスト教宣教師の到来
1861年 南北戦争が始まる 各部族が南軍(連邦軍)と北軍(連合軍)に引き割かれる
1862年 サンティ・ダゴタの反乱
1863年 サンドクリークの虐殺
1860年代〜90年 南部大平原、北部大平原、西部をめぐる熾烈な抗争
1890年 ゴーストダンスの登場とウンデッド・ニーの大虐殺 武力による抵抗の終焉
1890年以降 同化政策に転換 先住民社会の崩壊が続く
1934年 インディアン・ニューディール改革法が成立
1960年〜70年代 レッド・パワーの運動
1970年代〜 独自の伝統文化を生き残らせるための法廷闘争
〔 その後も現在に至るまでアメリカ先住民の戦いは続いている 〕
【作品の章立】
1. ぼくの名はリトル・トリー
2. 母なる大地(モ・ノ・ラー)とチェロキーのおきて
3. 壁に揺れる影
4. 赤狐スリック
5. 理解と愛
6. 祖父母の昔話
7. サツマイモ・パイ
8. ぼくの秘密の場所
9. 危険な商売
10. クリスチャンにだまされる
11. はだしの女の子
12. ガラガラ蛇
13. 夢と土くれ
14. 山頂の一夜
15. ウィロー・ジョーン
16. 教会の人々
17. 黄色いコート
18. 山を降りる
19. 天狼星(ドッグ・スター)
20. 家へ帰る
21. 遠い旅路の歌
【『リトル・トリー』が導いていく先とは】
私たちが目にする現代社会の真実とはいったい何なのだろうか。
自分達が常識と思っている考え方が独善に満ちたものであったとしたら、どんな悲劇が起きるのか。
ネイティブ・アメリカンの歴史を学ぶとそんな怖さをひしひしと感じる。
アメリカ建国以来の歴史は、イコール、ネイティブ・アメリカンの悲劇の歴史といって大きな間違いではないはずだ。

近年になって、アメリカ合衆国側からのみの独善的な歴史観は払拭されたように思うが、つい20〜30年ほど前までの日本におけるネイティブ・アメリカンのイメージは、西部劇で弓矢で開拓者を殺しに来る野蛮人でしかなかったように思う。開拓者の砦を襲いに来る「アパッチ砦」そのものだ。
少なくとも少年時代に私にとってはその程度の認識しかなかった。
当時は「ネイティブ・アメリカン(アメリカ先住民)」という表現をしている日本人はほとんどいなかった。みな「インディアン」と呼んでいたのは歴史を学んでいない私達の未熟さの象徴であったのかもしれない。もちろん今でもインディアンと呼ぶ人も多い。ネイティブ・アメリカン自身がインディアンと表現することもめずらしいことではないようだ。書籍による知識によれば、彼ら自身はネイティブ・アメリカンともインディアンともあまり表現せず、自らの部族名で呼ぶことを好むらしい。

『リトル・トリー』が書かれたのはレッド・パワー運動の嵐が吹き荒れた最高潮の頃ではないかと推察される。
舞台にしたのは1930年代前半。ニューディール政策にいたる直前である。ネイティブ・アメリカンにとって最も苦しんだ時期ともいえる。何十年にも及ぶ同化政策がピークを迎えていた。その主眼は、先住民特有の文化的アイデンティティの封じ込めとキリスト教への改宗の強要にあった。
そのような行為が許されるはずはない。しかもそれが国家の名の元に行なわれた。そのことを私たちは直視しなければならない。

この作品では、渡来した西欧人の行状に対して、一種の諦観を持ちながらも痛烈な批判を浴びせている。その多くに私は共感する。特にアメリカ合衆国政府の政策とキリスト教的道徳観がネイティブ・アメリカンの人々を苦しめ、殺していった歴史的事実を正視眼で直視することを、あえてここで強調したいと思う。

そしてこの事実はアメリカ国家のみではない。日本においても全く同様の行為が行なわれてきている。北方のアイヌ民族に対して、南方の琉球王国に対して。
私達も今一度、自分の住む国家の来し方を検証すべき時を迎えているのだろう。

フォレスト・カーター氏の経歴については確かに疑問が生じる余地があるのが事実だろう。しかしそれを差引いても『リトル・トリー』は読むべき作品である。
我々人間が失ったもの、自ら踏みにじってきたものが随所にちりばめられている。キリスト教社会では異端とされるが素朴に考えて真理に近いのではないかと直感してしまう、ネイティブ・アメリカンの宇宙観、自然観、そして生命観がそこにある。

ネイティブ・アメリカンには全部族に共通する思想が存在する。
・全宇宙に普遍的に存在する法(おきて)が存在する。
・円を重視する。円は世界をつかさどる精霊がやどる。
・自然からは生きるために必要なものを必要なだけしか獲らない。
・物事を決するときは7世代先の子孫のことを考えて決める。
・全ての生き物は繋がって共に生きている。
・生きている木は切らない。
・人も動物と意思を交流させる。
・風のように自然に溶け込んだ波長で会話することができる。
・理解は命に限りある人間の理解を超えたところに行き着くことができる。
・過去の歴史を知ることは未来を創るために必要である。
・先祖から教えられた教訓を守る。
・何かいいものをみつけたら出会った人にわけることだ。
・いいものはどこまでも広がっていく。
・誰でもボディーマインドとスピリットマインドの二つの心を持っている。
・スピリットマインドは永遠に生き続ける。使うほど大きく強くなる。
・起こってしまったことは誰の責任にもしない。
・人はただ何かを与えるよりもその作り方を教えることがなおよい。
・人は思いを極限に集中させると距離を超え言葉なしで交信できる。
・一つの習慣が次の習慣を生む。
・身についた習慣が悪いものであれば人の性格をゆがめる。
・教育は二つの幹を持った木である。
・一つは技術を養う幹、もう一つは物事を尊重する心を育てる心である。
・まだ使えるものを捨てるのは罪の深い行為である。
・心を整理すれば自分がしなければならないことは明らかになる。
・自然も大きな生命の一つである。
・生命活動は自然も人間も動物も植物も同じである。
・人が手を貸してくれたら自分が先頭に立って働くことだ。

そのいくつかが『リトル・トリー』の随所で語られている。
ネイティブ・アメリカンが持っている宇宙観、生命観は現在の最先端の宇宙論、生命論と合い通じるものが多い。そのひとつでも多く、自分自身の生活に取り込むことができれば現代社会の病巣も少しはよくなるだろう。

この作品を契機にして、20世紀までの地球文明の功罪を問い直す機会を各人が作り出したい。そして本当に幸せに生きるとはどういうことか、何が人生の目的なのか。より真実に近づける宇宙観、生命観を探求することを馬鹿にしない、真摯な人の輪を広げていくことを切実に訴えたい。


 http://prosecute.way-nifty.com/blog/2007/05/26_b12f.html

【参考文献】
ネイティヴ・アメリカン−写真で綴る北アメリカ先住民史−
(アーリーン・ハーシュフェルダー著)BL出版
ネイティブ・アメリカン−叡智の守りびと−
(スティーブ・ウォール/ハービー・アーデン共著)築地書館
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